世界はまだ君を知らない
それから仁科さんは、あっという間に残さず食べ終えてくれて、ふたり食事を終えた。
そしてそこから、コーヒーを飲んで少しゆっくりをして……時刻は気づけば23時頃。
「そろそろ寝るか。寝室は向こうだ、好きに使ってくれていい」
仁科さんはそう言いながら、リビングの向かいの部屋を指差す。
寝室を好きにって……えっ!?
「えっ、寝室は仁科さんが使ってください!私ソファをお借りしますから!」
「バカを言うな。リビングは冷える、女性に冷えは禁物だ。安心しろ、加齢臭はまだないはずだ」
「匂いは気にしてませんし、私の方が仁科さんより寒いの平気ですから!」
気遣って言ってくれているのだろう。けど、男性のひとり暮らしで予備の布団はないだろうし、仁科さんがこのソファで寝るのは狭いだろうし……うん、やっぱりベッドは彼が使うべきだ。
「ベッドは仁科さんが使ってください!私ここから動きませんから!」
私はそう言い張ると、子供のようにソファにゴロンと寝転がり断固として動かない。
そんな私に仁科さんは少し驚いて、「ふっ」と困ったように笑った。