世界はまだ君を知らない



……で、ですよねー……。



そうですよね、なにかが起こるわけもないし、仁科さんはそうやって手出しするような人じゃないですよね……!

ひとりでドキドキする自分がアホみたいだ、と私も彼に背を向けて、壁側を向いた。



ベッド、硬すぎず柔らかすぎず寝やすいなぁ……。うちの会社の商品かな。



枕に顔をうずめると、仁科さんの香りが鼻から入り込む。

私の髪も、着ている服も、仁科さんの香り。全身が、彼と同じ空気に包まれていることに、今更ながら胸がドキ、と鳴る。



改めて意識したら恥ずかしくなってきた……えい、もう寝ちゃおう!



「……千川」



そうぎゅっと目を閉じた瞬間、名前を呼ぶその声ひとつが部屋に響く。



「は、はい?」

「……実は俺はいつも右向きで寝る派でな。そっちを向いてもいいか?」

「あっ、はい。どうぞ」



体の向きがいつもと違うと寝づらいらしく、そう言うとベッドがギシ、と揺れ、彼がこちらへ体を向けるのを感じた。

壁のほうを向いたまま、背後でその視線を感じて少し緊張してしまう。



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