世界はまだ君を知らない
「……あの、聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「どうして仁科さんは、私を気にかけてくれるんですか?」
ずっと、気になっていた。
『俺が、君を変えよう』
あの日から、どうして仁科さんは私を変えようとしてくれるのか。
静かな部屋でそう問いかけると、少し黙ってから言葉は返される。
「以前、新宿店に転勤する前に抜き打ちで来た、って言っただろ」
「あ……そういえば」
「スタッフは勉強不足だし、前店長は自分のことで手一杯だし……ひどい店だと思っていたところで、お前の姿が目に留まった」
私の、ことが……?
「……背が大きいから、ですか?」
「一瞬は、それもある。だがそれだけじゃない」
見た目の印象だけじゃなく、彼が私を目に留めた理由は。
「仕事中のお前は優しい笑顔で丁寧に接客をしていて……綺麗で、惹かれた」
「き、れい……」
「……だが、実際はコンプレックスを抱いて自己否定してばかり。そこまで自分のことを否定する理由が、俺にはわからない」