世界はまだ君を知らない
「どうかしましたか!?」
私たちの様子からなにかがあったと察したのだろう、駅員たちがこちらへ駆けつけてきた。
瞬間、男性は急いでその場を駆け出し、駅の出口へ向かって逃げて行く。
それを追いかける駅員たちの一方で、彼はこちらへと目を向けた。
「……大丈夫か?」
「あ……はい、ありがとうございました。おかげさまで助かりました……」
彼に慌てて頭を下げると、不意に足から力が抜けて、私はその場にしゃがみこんでしまう。
「す、すみません……今になって、力が抜けてしまって」
……情けない。
本当は、怖かった。触れられた感触がまだ残っていて、気持ち悪い。
今になっていっそう込み上げてくる実感に、足が震えて、立てない。
そうしばらく灰色の地面だけを見つめ、そのままの姿勢でなにげなく視線を前に向けると、そこに先ほどまでいた彼の姿はない。
……いな、い。
音もなくいなくなってしまった彼に一瞬驚くけれど、当たり前かとすぐに納得もできた。