世界はまだ君を知らない

◆証






仁科さんとふたりで過ごした、雪の夜。

こぼれた涙が、彼の胸元を濡らした。



止まらない涙はきっと冷たかっただろう。

けど彼はずっと抱きしめてくれていて、心強さと安心感、愛しさ、沢山の感情が包み込んでくれた。







「最近、翠くんちょっと綺麗になったよねぇ」



東京で大雪が降った日から数日が経った、2月のある日。

客足が途切れた午後に、店舗2階の奥で一緒に商品ディスプレイを考えていた松さんからの言葉に、私は首をかしげた。



「え?そう、ですか?」

「うん。前は綺麗な男性、って雰囲気だったけど、最近やけに女性らしさが出てきたっていうか」



女性らしさ……。

自分ではわからないその感覚に、首を傾げたままでいると、松さんはニヤリと口角を上げて笑う。



「もしかして……好きな人でもできた?」

「え!?」



好きな人!?

そのひと言に頭に思い浮かぶのは、仁科さんの顔。



って、なんで仁科さん!?

自分で思い浮かべておいて、恥ずかしくなってしまう。



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