世界はまだ君を知らない
「ん?なにしてるんだ」
聞こえた声に振り向くと、階段を登ってきた仁科さんは、抱きつく松さんと抱きつかれる私という光景に不思議そうな顔でこちらを見た。
「あ、仁科店長。店長も翠くんにハグしてもらいます?」
「え!?」
「俺がやったらセクハラだろ」
冗談混じりに言う松さんに、私は照れてしまうけれど、仁科さんはいたって普通に流す。
ひとりで意識してバカみたい……!
「千川、手あいてるか?向こうでDMの作業やってもらいたいんだが」
「あっ、はい。わかりました」
腕を離した松さんに手を振り見送られ、私は仁科さんに続いて裏へと向かう。
隣に並んで歩けば、少し高い位置にあるその横顔はまっすぐ前を見ている。
『好きな人』、なんて……松さんの言葉に、意識してしまう。