世界はまだ君を知らない
◆彼の言葉は
朝の電車内で、目は自然と彼を探す。
降りる人、乗り込む人、座席に座る人々の中で、黒いコートを着た黒髪の、背が高い彼の姿を。
……なんて、いるはずないか。
「はぁ……」
痴漢に遭ったところを彼に助けてもらった翌朝。
外の寒さを忘れさせるような、暖房がよく効いたそれなりに混雑する電車の中で、私はひとりキョロキョロと辺りを見渡し、ため息をついた。
もしかしたらまた会えるかもって期待もあったんだけど……そううまくはいかないよね。
昨夜たまたま同じ電車に乗っていただけで、いつもは全く違う時間帯の生活の人かもしれないし、線だって方向だって違うのかもしれない。
でも、だからこそまた会えたら運命かな、とか思ってしまう自分がいて……。
あぁもう、男性に少し親切にしてもらっただけで浮かれすぎかもしれない。