世界はまだ君を知らない



でも、嬉しかったんだ。



『千川なら大丈夫だろ』

それがいつも、言われるセリフ。

強いから、他の女性とは違うから大丈夫だろう、って決めつけられて言われるから、私自身も言葉を飲み込む。



だから、そのせいかな。



『怖かったな』



そう言ってそばにいてくれた。その優しさを思い出すだけで、心が温かくなるのは。



『新宿ー、新宿です』

「はっ!!」



昨日の思い出に浸っている中響いたアナウンスに、ハッと我に返ると私は慌ててバッグを手に電車を駆け降りた。



ひと目でいいから、また会いたいな。

いつか会えたら、『あの時はありがとうございました』ってお礼を伝えるんだ。

そして少しでも、近づけるきっかけができたらいいのに、なんて。



会いたい、お礼を言いたい、近づきたい、と心は欲張りになっていく。





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