世界はまだ君を知らない
「おはようございまー……あれ」
お店に着くと、挨拶をしながら踏み込んだスタッフルームがなにやらいつもと違う空気なことに気づいた。
松さんや女性社員たちは「かっこよかったね」「嬉しいね」とキャッキャとはしゃいでいる一方で、藤井さんなど男性社員は悔しそうに舌打ちをしている。
だ、男女ですごい温度差。どうしたんだろ……。
どちらに事情をうかがうべきか戸惑っていると、藤井さんは私を見つけて声をかけた。
「おい千川!聞いてくれよ!」
「藤井さん、どうしたんですか?」
「さっき新しい店長が顔見せたんだけどさ、ちょっとかっこよかったからって皆キャーキャー言ってるんだよ!お前も男ならこの悔しさわかるだろ!?」
いや、わかりませんけど……。
私の肩を掴み悔しそうに嘆く彼に、苦笑いで答える。
でもそっか、新しい店長はかっこいいんだ。女性たちは大喜びだろうなぁ。
ああもはしゃぐわけだと女性たちの喜び方に納得もしていると、スタッフルームのドアがガチャリと開けられた。
そこから顔を見せたのは今日もスーツ姿に顎髭が渋い上坂さんだ。