世界はまだ君を知らない
「……俺的には、そのまま誰かさんとくっついてくれたらもっと安心なんですけどね。なーんか最近ギスギスしてるみたいだから」
上坂はそう笑いながら、ちら、と横目で俺を見る。
……気づかれていたのか。
俺と千川の、微妙な空気を。
「……聡いな」
ぼそ、とつぶやいた俺のたったひと言に、上坂からは「ははっ」と小さな笑い声が漏れた。
「なーにふたりで盛り上がってるんですか!」
その時、トイレから戻ってきた藤井は興味津々で会話に入りながら席へつく。
上坂が笑っているだけで決して盛り上がっている、とは言い難い空気だと思うが……。
黙ったままでいる俺に、藤井は「あ」と思い出したように言う。
「そういやさっきトイレの窓から見えたんですけど、天気ヤバいですよ!超大雨と雷!」
「そうなのか?」
藤井がそう言いながら指差す先を見れば、端の窓の外は激しい雷雨に見舞われている。
自分たちの席からは外の様子は全く見えないことから全く気がつかなかった。さっき来た時も、雨が降りそうな空気はあったが……まさかここまで大荒れとは。