世界はまだ君を知らない
「本当だ。大荒れだな」
「電車大丈夫かなー、あ、もし停電したら上坂さん家泊めてくださいよ!」
「いいけど……騒いだら追い出すからな」
そう上坂と親しげに話し、藤井は窓の外を見ながらぼやく。
「けど大丈夫かなー、千川」
「なにがだ?」
「あいつここ何日分かの商品発注データ、手違いで全部消しちゃったらしくて。残業するって言ってたから、まだ居残りしてると思うんですよね」
千川が、まだ店に……?
言われてみれば、俺が帰る際にもまだ身支度はしていなかった。つまりあれからひとり残って……。
そう考えている合間に、窓の外からはゴロゴロゴロゴロ……ドーン!と大きな雷の音が響く。
その音に思い出すのは、なにげない会話のなかの彼女のひと言。
『私暗いの苦手で』
『おまけに雷も苦手だから台風の時期は大変で』
暗いのや雷が苦手だという彼女が、今もひとりで店にいるのだとしたら。