世界はまだ君を知らない
「お、千川も来たな。全員集まったところで新しい店長紹介するぞ」
その声に、自然と皆はドアのほうへ集まる。それは私も同様で、バッグも置かずに上坂さんのもとへ向かった。
すると、彼の後ろからひとりの姿が現れる。
それは紺色のスーツを身にまとった、黒い髪の、高い背をした姿。涼しげな目に銀縁のメガネが凛々しさを感じさせて……。
「……って、あれ?」
それは、どう見ても昨日駅で見た姿。
痴漢から助けてくれたメガネの彼で、ついさっきまで私が探していた彼で……。
「こちら、新しい店長として赴任した仁科店長だ」
『新しい店長』、そのひと言に驚きから手の力が抜け、バッグを床にドサッと落とした。
松さんや藤井さんたちは、それぞれいろんな意味で彼に夢中でそんな私の反応になど微塵も気づかない。
それは目の前の彼……仁科さんも同様で、私の動きなど目に留めることなく、全体を見渡し小さく礼をした。
「仁科了です。札幌店から来ました、よろしく」
仁科、了さん……。
また会いたいとは思っていたけれど、まさか上司として会えるなんて。
運命?偶然?どちらにせよ嬉しくて、けれど信じ難くて戸惑ってしまう。
そんな中、皆は私とは違う意味で驚きを見せた。