世界はまだ君を知らない



そう、付き合ってから5ヶ月が経つけれど、私と仁科さんの関係はここでは秘密。

一歩店内に踏み込めば、いたって普通の、店長とスタッフとしての関係だ。



というのも、下手に関係を明かせば藤井さんにからかわれたり、梅田さんにあれこれ言われたりとしかねない。

故に、今のように背筋が曲がっていれば叱られるし、甘やかされることもない。



……まぁ、仁科さんはオンとオフの区切りはきちんとしていそうだしね。

私としても、職場内で揉め事のきっかけを作ってしまうくらいなら、黙っておきたい。



そんなことを考えながら松さんと他愛のない会話をしていると、先ほど仁科さんに受話器を渡した藤井さんはじっとこちらを見ている。



「ん?どうかしました?」

「いや、なんか千川……夏服だと色気あると思って」

「えっ、そうですか?」



色気?

思いもよらぬことを言われ、少し恥ずかしくて照れ隠しに髪を耳にかける。


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