世界はまだ君を知らない
その夜の、閉店時刻を過ぎ迎えた夜20時。
私たち新宿店の面々は、お店からほど近い場所にある居酒屋にいた。
「それでは、仁科店長の就任を祝ってー!」
がやがやとにぎわう店内奥の個室で、お調子者の藤井さんの掛け声に、皆の「かんぱーい!」の声が響く。
それと同時に音を立ててグラスを合わせると、私は早速ひと口烏龍茶を飲んだ。
今日は藤井さんの発案で、新年会を兼ねた仁科さんの歓迎会。
横長いテーブルに、手前側には女性たち、奥側には男性たちと別れて座っている。
……まぁ、一番端の席に座る私は、左隣に藤井さんと、向かいには仁科さんに挟まれる位置で、こんな時も男性側になるわけだけれど。
「あれ、梅田さんそのバッグ新しいやつ?」
「そうなんですよ〜、プラダの新作なんですけど、彼氏が買ってくれたんですぅ」
梅田さんが見せる白いハンドバッグに、松さんたちは「いいなぁ」と羨望の眼差しを見せる。
そこから始まるブランドやファッションの話をなんとなく聞きながら、そういったものに疎い私は女性側に座っても話題にはついていけないだろうなと思う。
そう思うと私には男性側がお似合いなのかもしれない……って、それはそれで、どうなの。
そんなことを考えながらグラスをテーブルに置くと、目の前の仁科さんのグラスの中身が半分以上減っていることに気づいた。
反射的にビール瓶を持つと、それを彼の方へ傾ける。