世界はまだ君を知らない
「それは意外だな」
「聞かなかったことにしてください……」
真顔で『そうなのか』と納得する仁科さんに、私は当時のことを思い出しがっくりとしながら、お刺身をひと切れ箸でつまみ口に運ぶ。
すると隣では藤井さんが「ぷはー!」と声を上げ、早くもひとりでひと瓶を空にして仁科さんの方を見た。
「けど仁科店長、札幌から東京に転勤なんて可哀想ですよねー。彼女とか、大丈夫なんですか?」
その問いかけに、当の仁科さんは真顔のまま、先ほど私が注いだビールを飲む。
「大丈夫もなにも、そもそもいない」
「マジですか!?その顔で!?」
へぇ、彼女いないんだ……そうだよね、見た目はいいけど、デリカシーないし、無愛想だし。
そう心の中で納得してしまう。
そんな中、女性同士で盛り上がっている傍らで、梅田さんがこちらに耳をすませているのが見えた。
それに一切気付くことなく、藤井さんは話を続ける。
「ちなみに好みのタイプは?やっぱかわいい系ですか?それとも美人系?」
「特にない。好きになった人がタイプだ」
「うわ!模範解答!」
ガツガツと話題を掘り下げる藤井さんにも、仁科さんの答えは真面目で、頬を緩めないところもまた彼らしい。
「好きになった人が、っていうのもわかるんですけどね〜。やっぱ俺は年下小柄派なんだよなぁ」
「いや、年上スレンダーもいいぞ」
「スレンダーも嫌いじゃないんですよ?けどやっぱ胸はこう、ずっしりしててほしいというか」
藤井さんは年下派、それに対し上坂さんは年上派……それぞれの好みを語りながら、藤井さんは何気なく私を見る。