世界はまだ君を知らない




それから2時間ほど飲んだ私たちは、居酒屋を出てにぎやかな夜の新宿を歩いていた。



「この後カラオケ行く人ー!」



先導して歩く藤井さんの声に「はーい」と皆が手を挙げる中、私は一番後ろから声をかける。



「すみません。私、先帰りますね」

「え?あ、そっか。千川は明日早番だったっけ」



思い出したように言う上坂さんに、小さく頷く。

そう。他の皆の明日のシフトは中番や遅番、休みなど。

けれど早番にあたる私は、この後カラオケに行って遅くまではしゃいでから出勤するほどの元気はない。

早番なら仕方ないと納得する皆の中で、松さんは「あれ」と藤井さんを見る。



「そう言えば、藤井くんも明日早番じゃないの?」

「俺は平気!オールとかしょっちゅうだから!」



同じく早番の予定の藤井さんは、そう松さんに誇らしげに答えると笑う。



オールって……若いなぁ。私の方が年下のはずだけど。

私には無理だ、とつい苦笑いをこぼしていると、私の隣では仁科さんも小さく手を挙げた。



「俺も同じく朝から出るから先に失礼する」



そういえば仁科さんは、今日残業して行う予定だった仕事を明日に回したって言っていたっけ。

同じく明日のことを考えると遅くまではいられないのだろう。

皆に「お疲れ様でした」と小さく礼をすると、私は彼とふたり駅へ向かって歩き出した。



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