世界はまだ君を知らない




仁科さんと肩を並べ、無言のままスタスタと歩く。

こうして並んでみても、やっぱり背が高い人だ。歩幅があまり変わらないところがちょっと切ないけど……。



駅構内を歩きホームに出ると、ちょうど来た京王線の電車に乗り込む。

車内は今日もいつも通りそれなりの人で埋まっていて、私たちは車内の端につり革を掴んで立った。


そのままひとつめの駅を通り過ぎるまでの間も、私たちの間には会話はないまま。



無口な仁科さんに対し、なにを話していいかが分からず自然と無言となってしまう。



歓迎会中のあの一件もあって、やっぱりなんだかんだと言ってもいい人なのかもしれないと思う。

けど昼間の会話でもなんとなく微妙な空気になっちゃったし……ていうか、ストレートに言われるたびに自分がムキになっちゃうし。



き、気まずい……。

そういえばあの日もこの電車で行き合ったってことは、仁科さんも京王線沿いに住んでるんだよね?



「仁科さんって家どこなんですか?」

「幡ヶ谷」

「へぇ、近くていいですね……あれ?」



話しながら窓の外を見れば、丁度そこには『幡ヶ谷』の看板。けれど彼は降りず、ドアは閉まり、電車は発車していく。


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