世界はまだ君を知らない
第二章
◆ちいさな可能性
『女性のひとり歩きは感心しない』
彼の言葉に戸惑いながらも嬉しいと感じたのは、これまでまともに女性扱いなんてしてもらえたことがなかったから。
『俺が、お前を変えてみせる』
そう言った、まっすぐな瞳が記憶から離れない。
「変えてみせる、かぁ……」
つぶやきながら、モップを手に朝の店内を歩く。
開店前の静かな店内を掃除しながら、どこかぼんやりと思い出すのは昨夜の彼との帰り道のこと。
昨夜、電車内で泣きそうになるのをなんとか堪えられたものの、涙目だった私。
そんな私に仁科さんは、ただ黙って頭を撫で続けてくれていて、結局そのまま自宅まで送ってくれた。
そんな帰り道に知ったのは、仁科さんの優しさ。
仕事中は厳しいし、時折デリカシーのない言い方もする。
けどやっぱり本当はいい人で、あの日、痴漢から助けてくれた彼に感じた印象が、本当の彼に一番近いのだと知った。
けどあんなに優しくて紳士的で……絶対モテるだろうなぁ。
私なんかにあそこまで優しくするくらいだ。他の女の子にはもっと優しくするだろう。
そう、ああいう人は皆に平等に優しい。それを同じように自分にも向けてくれているだけだと、わかっているけれど、喜んでしまう。