世界はまだ君を知らない
けど、『変える』ってどういうことだろう。
私の中身を、性格を変えるということ?でもどうやって?
染み付いたこのコンプレックスはちょっとやそっとじゃ拭えないと、自分でも思うけれど……。
そう、うーんと考えながら、モップで床をこする手を止め顔を上げた。
すると目の前には仁科さんが立っていた。
「ぎゃっ!?」
あまりにも突然現れた彼につい大きな声を出してしまうけれど、その顔はいつも通り凛々しいまま。
「いきなり悲鳴とは、失礼な挨拶だな」
「す、すみません……いらっしゃってたんですね」
「あぁ、さっき来た」
1番目に来た私が掃除をしているうちに来ていたのだろう。気配が全くないものだから気づかなかった。
驚く心を落ち着けながら彼を見つめれば、昨夜のことが記憶に蘇る。
頭を撫でてくれた手を思い出すと、少し恥ずかしくて照れ隠しに視線を足元に向けた。
「あの、昨日はすみませんでした。送ってもらったうえに……その、みっともないところもお見せして」
「いや、いい。気にするな」
余計な言葉などはない、簡潔なひと言。
けど、その言葉にそっけなさより優しさを感じられるのは、この心が彼に対して安心感を覚えているからだろうか。