世界はまだ君を知らない



「い、いえそんな」



「俺つい千川を男として見がちというか、酒も入ってて調子乗ったけど……さっき朝一番に仁科さんに叱られて、反省した」



え……?仁科、さんが?



「仁科さんが、なにか言ってたんですか?」

「あぁ。『千川も女性なんだから考えろ』って叱られてさ。……あと、『次同じことをしたら海外工場に転勤させる』とも言われた」



うちの会社の海外工場って、確かベトナムだったはず……。

そこへの転勤はちょっと、嫌かもしれない。けど仁科さんなら本気でやりかねない。



反省する気持ちに加え、海外転勤も困るのだろう。冷や汗をかきながら藤井さんは手を合わせて謝る。



「本当ごめんな。気をつけるけど、今度また俺が調子乗っちゃったら遠慮なく引っ叩いてくれて構わないから!」



それは、彼の言葉に日頃から悪意がなかった現れ。

悪意がないからこそ、この心は痛かった。けど、仁科さんが言ってくれたからこそ、彼自身も知ったこと。



昨夜言っていた、『変えてみせる』っていうのはこういうことなのかな。

こうして、少しずつ変われるのかな。少し、ほんの少しずつでも。

そう思うとまた、心に小さな光が差す。



「……じゃあ、遠慮なく引っ叩きますね」

「え!?いや、ちょっとくらいは加減して……」



焦る藤井さんに、心からの笑みがこぼれた。







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