世界はまだ君を知らない
その日の午後。今日も店頭では爽やかな笑顔を見せた仁科さんがお客様を送り出していた。
「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」
響き渡る明るい声に、二階のフロアからそれを見ていた松さんは、苦笑いでぼやく。
「……仁科さん、相変わらず接客中は別人だよねぇ」
「本当……ある意味、プロですよね」
にこやかなイケメン店長に見送られ、年配女性のお客様は頬を緩めているけれど、一方で日頃の無愛想っぷりを知っている私たちは驚きと感心しか出てこない。
私たちには笑顔のひとつも見せないけれど、お客様の前となると一瞬で笑顔になってみせるんだよね……。
すごいなぁ、ああいうところは一応見習うべきだとは思う。
そう顔の向きを店頭側から2階フロア内にいるお客様へと向けた。
今私と松さんが応対中のお客様は、20代半ばの男女。
新婚さんだそうで、新居に置くふたりのベッドを選びに来たのだけれど、なかなか決められずもう2時間は迷い続けている。