世界はまだ君を知らない
◇大切なもの
コポコポ……とカップにお湯を注ぐと、インスタントコーヒーの濃い香りがあふれた。
スティックシュガーとミルクを入れて、茶色くなったコーヒーを立ったままひと口飲むと、「ふぅ〜」と気の抜けた声が出る。
「食後のコーヒーは最高だなぁ……おいしい」
壁にかけられた時計が15時を指す頃。
私は少し遅いお昼休憩の時間を迎え、ひとりスタッフルームで食後のひとときを過ごしていた。
今日は開店直後からパラパラとお客様が途切れず、休憩時間が遅れてしまった。
けど今日もマットレスやオーダーの枕など比較的高めの価格のものが売れたし、嬉しいなぁ。
カップを手に歩きながら、室内端のホワイトボードを見た。そこには今月の日ごとの売上や予算に対しての達成率がずらりと書き込まれている。
それを見てひと目で分かるように、新宿店の売り上げは昨年と比べ僅かに上昇している。
それまでは大体昨年と同じか下がるか、といったことが多かった中でこの売上は、まるで仁科さんが来ての成果を示しているかのようだ。
仁科さんが新宿店に来て、接客や商品知識を学び直して……それがこうして数字に出るのだから、やっぱり彼はすごい人なのだと思う。