世界はまだ君を知らない
く、苦しい……!
乗ってしまったものは仕方ない、とぎゅうぎゅうに入った人の中で身動きとれずに固まっていると、電車は走り出す。
ちら、と見ればすぐ隣にいる小柄な女性は、人と人の間に顔が埋もれて苦しそうだ。
小柄な人はこういう時大変だよね……なんとかしてあげたいけど、身動きとれないのはお互い同じだ。
少しでも人が引くのを待つしかない。
そう電車に揺られていると、突然不意にお尻になにかが触れるのを感じた。
「ん……?」
それは鞄よりも柔らかい感触で、ぶつかっているというよりは、明らかに撫でるような触れ方をする。
って……もしかして、これ……痴漢!?
生まれて初めて経験することに、全身の血の気はサーッと引き、顔は強張る。
ち、痴漢なんて……しかも私相手になんて。
想像したことのない事態に、頭の中は一気にパニックになってしまう。
どうしよう、いや、でも自分の勘違いかも……と思おうともするものの、手はお尻から離れようとする気配はない。
恐る恐る窓ガラスに映る背後を見れば、私の少し後ろの位置にはニヤニヤと笑う中年男性の姿がある。
きっとこの人が痴漢だ。そう思うものの、よくよく見れば、男性の視線は私のすぐ隣の苦しそうにしている女性へと向いていることに気付いた。
が、その手が触っているのは間違いなく私のお尻であって……つまり、男性は女性のお尻を触っているつもりなのだろう。