世界はまだ君を知らない
「千川は頼まれれば彼氏役でもやるだろ?優しいというかバカだからな」
「うっ……」
「俺は、そんな千川に危ない思いをさせたくないから引き受けただけだ」
それってつまり……私の、ため?
『千川の代わりに俺が送る』
あの言葉は、私を思っての言葉だった。
なんで、そんな……私なんかのために。
……変な人。
真面目な顔で言うそのセリフは、嘘や冗談には聞こえなくて、驚き戸惑ってしまうけれど嬉しいと思う。
「それ、梅田さんからすると相当デリカシーのない言い方だと思いますけど」
「……言い方に気をつけるべきだったと反省してる」
気まずそうに髪をかく、そんな彼につい「くす」と笑みがこぼれた。
「けど、仁科さんらしいとも思います」
隠すことなく、真っ直ぐに伝える言葉。
器用なようで不器用な、なんとも仁科さんらしい言葉だと思った。
すると彼は、じっとこちらを見つめて右手を伸ばした。
その指先はわたしの左頬を包むように触れ、少し低いその体温を伝える。