SNOW

出会い

新学期になった。

9月だというのに寒さが身に染みる。
依子はあれから毎日学校へ通った。
自分の中にあるよくわからないこの感情の正体に気づいてしまったから。
初恋。
依子は信じる事が出来なかった。
信じたくなかった。今まで自分の身に降りかかってくる恋愛沙汰はどれもこれも避けてきたものだから。
自分でも何故こんなに「こういう」事が嫌なのだろうと考えた。
きっと私は、両親の事を想っていたから。

理想の夫婦だった。
理想の家族観だった。

幼いながらも依子はそう思っていた。
沢山愛情をもらったから。

でもそれは雪のように儚く消えてしまったから。

どうせ終わりが来る。
依子はそれが怖かった。

家に居たら何かの拍子に会ってしまう。そう思った依子は、学校が終わったあとも閉館ギリギリまで近所の図書館に通い、読書と勉強を必死にこなしていた。

そして新学期。学校に着いて一番に亜美が話を切り出した。
「依子!久しぶり…ってわけじゃないよね。あんたほぼ毎日学校来てたもの。」
「あ、おはよう。そうだね、家じゃ集中できないから学校と図書館通ってたの。」
「本当に真面目を絵に描いたような人間よねぇ。ま、それが依子のいい所でもあるけど。」
亜美は嫌味のない笑顔を翳した。つられて依子も笑う。
「あ、そうそう!大ニュース。今日から私らのクラスに転校生が来るらしいよ。しかも男!」
「…亜美、早速狙ってる?」
「あったりまえじゃない。職員室覗きに行った子によるとさ、かなりのイケメンらしいよ。」
「…。」
「…余裕のだんまり?」
「違うって!ただ亜美は相変わらずだなって思っただけだよ。あ、良い意味で。」
「もう。あ、先生来た!」
ガララ、と教室の扉が鈍く開く。
「えー、今日からこのクラスに新しい仲間が加わるぞー。ほら、さっさと入って挨拶。」
気怠そうに担任が紹介すると、気怠そうに男子生徒が入ってきた。

依子は目を疑った。

「…向居空です。よろしくー。」

むかいそら。
そう告げた男子生徒は、隣に引っ越してきた依子の初恋相手にそっくりの顔だちをしていた。
同じ苗字、似ている顔。
ただ違うのは、視線がぼやついている所。何もかも諦めているような、視線。

「あー、天宮の隣が空いているな。じゃあ、あそこの席座って。」
「はーい。」
依子は柄にもなく緊張していた。あの人とどういう関係?弟?
「…天宮さん?よろしくねー。」
気怠そうにふにゃりとした笑顔を依子に向ける。
依子は気が気なく、挨拶を返すことが出来なかった。


この出会いが、また依子の人生をかき乱す。

いつの間にか空から雪が降り始めていた。
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