きみのためのプレゼント
そう言って私は、鞄の中から一冊の手帳を取り出して、彼に見せた。驚いた表情を浮かべる翔平。無理もないか。


でも、これは私が持たなければいけないもの。そう、私が彼に見せたのは、身体障害者手帳だった。


「ハルの大会を見て、思ったの。あの場所はもう私の場所じゃないって。でも、走りたいと思ったのも事実。だからそのために私は、まず自分が健常者ではないことを認めようと思った」


「・・・すごいな。俺は、それだけは絶対に出来なかった。誰から見ても俺は、健常者じゃないのにそれを認めることができなかった」


拗ねる子どものように膝を抱え込み、階段に座る翔平。その姿が可愛くて思わずクスッと笑うとジーッと私を睨む彼。

またそれがおかしくて声を出して笑った。


「私ね、本当に楽しいの。あのまま、タイムに縛られて、伸び悩みに苦しんでいたらこんな風に笑うことも出来なかったと思う。確かに車椅子は必需品だし、歩行困難で人の目も優しいものばかりじゃない。だけど、あのときよりもずっと充実してる」


翔平の足と境遇に入れ替わって、本当に生まれ変わったような気持ちになった。今まで当たり前に歩いていた足がまるで別物で、痺れが治ることはない。


乗ったこともない車椅子に座って、誰かに介助してもらわなければ、日常生活を送ることも困難。


それでも、一度もあのときに戻りたいと思うことはなかった。
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