きみのためのプレゼント
車椅子を動かしながら、エレベーターに向かう途中、向こう側からやってくる一人の男子。


それが翔平だと気づいたけれど、そっと目を逸らした。このままだとすれ違う。距離が少しずつ近づくたびに心臓の音が高鳴った。



「・・・俺、体育祭のクラス対抗リレーに出るよ。そこで一位を取ってみせる。沙織のクラスに勝つから」



すれ違いざまに、ピタリと止まり、翔平が私にそう言った。クラス対抗リレーで一位か。そっか、それが翔平の自分のためのプレゼントなんだね。



「・・・うちのクラスが負けるわけないでしょ?」


「勝つよ。だってこの足は、沙織の足だから。だからさ、俺が勝ったら沙織のこと、無理やり攫うから覚悟してて」


その言葉に後ろを振り返ると、今まで見たこともないくらい自信に満ち溢れた翔平の姿があった。あんな翔平の姿を見たのは、初めてだった。


「絶対に一位取るから、覚悟してろよ!」


ビシッと指を指され、自信満々な笑み。悔しいけれど、その姿、すごくかっこよかった。ドキドキした。今すぐにでも大声で「好きだ」と叫びたいくらい。


だけど、あえてやっぱり私は、素直じゃない返事をする。車椅子の向きを変えて、翔平と向き合って。


「取れるもんなら取ってみなさいよ。一位なんて、そう簡単に取れないんだからね。うちのクラス、みんな速いんだから」


「取るよ、必ずね。待ってろ!」


光くんを意識した話し方だったはずなのに、そんな男らしい口調でまた私を惹きつける。


だから、悔しいけれど、結局心の中では翔平に目一杯エールを送っちゃうんだろうな。
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