きみのためのプレゼント
「すっかり、遅くなっちゃったね。帰ろうか。送るよ」
あの後、結局お互い口を開かないまま、ただ、黙って星空を眺めていた。
でも、星空を眺めていたのは、藤本くんだけで、私はずっとその、藤本くんの姿を眺めていた。
「あっ、そうだね。でも、帰るっていうことは家族に説明しなきゃいけないんだね。なんて説明しよう?突然、歩けなくなったって言えばいいかな?」
帰ろうの一言で、ふと我に返った。今、起こったことは現実のことで、実際私は、自分の足の痺れで動くこともままならない。
藤本くんはつたい歩きが出来ると言ったけれど、今の私はたとえ、それが出来る藤本くんの足だとしても自分でそれをやれる自信がない。
それに、家族は突然、私が歩けなくなったと言って納得してくれるだろうか。特にお母さんはいつも、私を応援してくれていた。だからかなり、落胆するかもしれない。
「ねえ、藤野さん。お姫様抱っこしていい?」
「お、お姫様抱っこ?」
「そう。俺の足だから、立つことは出来ると思うけれど、きっと動かないってことは、怖いんだよね?俺も走るのは正直、まだ怖い。だけどお姫様抱っこ、実はやってみたかったんだ」
まだ何も答えていないのに、そんなことはお構いなしに藤本くんは両腕で私を抱え上げ抱き上げた。
戸惑う私とは対照的に万編の笑みを浮かべて楽しそうな彼。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいよ」
「藤野さん、軽い。俺でも全然抵抗なく、お姫様抱っこ出来るよ。もっと食べなきゃ」
「ちょ、ちょっと回らないで。怖いよ」
「大丈夫。必ず俺が守ってあげる」
ピタッと動きを止めると、私に顔を近づけて、真剣な表情でそう言った藤本くん。その言葉は、とても私に響いてきた。
そして、初めてその時、胸がドキドキとするようなそんな不思議な気持ちになった。