きみのためのプレゼント
「あれ?藤本くん?」


「ここだよ。藤野さんが何か考えているうちにこっちに回ってきたんだ」


声のするほうに振り向くと、車椅子のハンドルを握る彼。

普通なら気がつくはずなのに、どれだけ回想に浸っていたのだろうか、私は。なんだかそれが少しまた恥ずかしい。

「今日はもう遅いし、そろそろ帰ろう。お互いの話はまた、ゆっくりとしようよ。時間はたっぷりあるんだし」


そうか。もう、タイムを気にすることもない。今までとは違う新しい自分。縛られるものもない。

ただ、一つだけ自分でできないことが増えただけ。


「大丈夫?スピードとか、もっとゆっくりの方がいい?」


私の乗った車椅子を後ろから、ゆっくりと藤本くんが押してくれる。

こんなにゆっくりとしたスピードでこの浦賀川の土手を進むのは、初めてかもしれない。


いつもは、走ってた。がむしゃらに。でも、ここを走るときはいつもよりも気持ちは楽しく。

そう、考えると私は走ることを嫌いになったわけではなかったんだ。


でも、そう思えるのは、今、こうして藤本くんの足をもらった新しい私でいるから。数時間前の私ではそんなこと気づくこともないまま、終わっていたかもしれない。


「そういえば、今日は七夕だって言ってたね。だからこんなにたくさん、今日は星が出ているのかな」
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