きみのためのプレゼント
お母さんの言葉にもう一度、藤本くんを見るも今度は視線が重なることはなかった。藤本くんはお母さんと視線を合わせていたから。


私は動揺が止まらないのに、藤本くんは、全てを悟ったかのように大きくお母さんに頭を下げた。


「すみません。今日は、僕の誕生日だったので、どうしても彼女と一緒に浦賀川の土手で星を見たかったんです。星空を待っていたらこんな時間になってしまって、本当にすみませんでした」


僕の誕生日?藤本くんの真剣な態度にお母さんも今度からは気をつけてねと一言。私だけがそこに置き去りにされている。


どうして、お母さんは私が車椅子だというのに、それが当然だという素振りなのか。一番の疑問点はそこだけれども、それをすぐに察知したかのように上手く対応できる藤本くんにも違和感。


それに誕生日なんて一言も聞いてない。



「お母さん、ごめんなさい。少しだけ、彼と話がしたいの。十五分だけ時間をちょうだい?そしたら彼を車で送ってあげてほしいの」


咄嗟の私の言葉に渋々、了解してくれたお母さん。タイムリミットは十五分。


「外は物騒だし、エンジンを掛けたままにしてあげるから車の中で話しなさい。私は車椅子をしまって、十五分後にまた来るから」


お母さんはそう言って、車にエンジンを掛けてくれ、クーラーを効かせたままの状態にして、車椅子を押し、家の中に入って行った。

今日は妙にコトが上手くいきすぎる。それはとても不可思議なことばかり。それなのに、自然とすべて当たり前の感覚に、違和感を持っているのは私だけ?


「藤本くん、今日、誕生日だったの?」

「聞きたいことはそれ?お母さんに鬼気迫るような表情で訴えていたのに」
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