きみのためのプレゼント
車椅子から藤本くんに、後部座席に運んでもらった。彼とそのまま、横並びに並ぶ。私が発した言葉を藤本くんはバカにするけれど、なんとなく一番最初に口をついて出た言葉がそれだった。


「とりあえず、誕生日って聞いたから。もし、そうならおめでとう。まだ言ってなかったよね?」


「驚いた。まさか、藤野さんからそんな言葉が聞けるなんて。でも、残念。俺の誕生日は十月。なんとなく、そう言えば許してもらえるかなと思って」


「嘘、吐いたの?おめでとうって言ったの返して」


「おめでとう」なんて普段は家族にしか言わない。それでも、誕生日だからと思って言ったのに。嘘だったなんて。

なんだか、無性に腹が立った。


「返してって、面白いんだね藤野さん。でも、俺の誕生日ではないけど、今日は俺の大事な人の誕生日なんだ。だから誕生日って言ったのもあるよ」


「大事な人の誕生日でも、藤本くんの誕生日じゃないじゃない!」


「ごめん、ごめん。怒らないでよ。藤野さんってほんとに可愛い人だね」


こっちは真剣な話をしたいのに、話をはぐらかすし、嘘まで吐くなんて。でも、たとえ腹が立っても今はこの人以外、誰もこの入れ替わりを共有できる人はいない。


苛立つ気持ちはあるけれど、いつまでもそんなつまらないことですねているほど、時間に余裕はない。


そっぼは向いたまま、彼の顔を見ずに問いかけることにした。
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