きみのためのプレゼント
「いただきます」

こんな時間だというのに、家族揃ってのご飯は本当に美味しい。他愛ない話に花を咲かせながら、みんなで食べるご飯。


今までなら、みんなが待っていてくれた時間も感謝することなく、黙々と食べた後、すぐに部屋に戻っていた。


だけど、今は自力で動くこともできない。だから自然とここにいて、話を聞かなくてはいけないけれど、それが心地いいものだなんて、全然気がつかなかった。


「・・・それで、さっきの子は友達か?」


少し、不機嫌そうに呟くお父さん。その言葉にケラケラと声を出して笑うお母さん。充は、二杯めのお代わりを自分で注いでいた。


「お父さんったら、もう。さっきからずっとこの調子なのよ。沙織だってもう高校生なんだし、彼氏の一人や二人くらい、いてもおかしくないわよね」


「二人?!二人もいるのか?」


「あはは、冗談よ、冗談」


彼氏?そうか。そういえば、私、溝上先生に酷いこと言われて傷ついて、もうどうなってもいいって思って、川原の土手に行ったんだ。そして、藤本くんの足と入れ替わった。


あんなにも私の心を抉るような出来事だったのに、今の今まで忘れていた。それどころか、今は笑ってお母さんのオムレツを食べることができている。


あのとき、もし藤本くんが入れ替わりを言い出してくれなければ、こんな時間はなかった。きっと、絶望に打ちひしがれて最悪な道に進んでいたかもしれない。


そう思うと、藤本くんはある意味私の命の恩人なのかもしれない。
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