きみのためのプレゼント
「どうした?足が痛むのか?薬飲むか?」


薬。薬を飲めばこの痺れは治るの?でも、飲んだこともない薬を飲むのは怖い。副作用なんかがあれば、もっと怖い。


「・・・薬、いらない」


どうしたらいいの?さっきまでは安堵してた。命が助かったんだ。こんなにも穏やかな時間を過ごせてる幸せだって。

だけど、私はこれからどうやって過ごせばいい?自分の欲求すら、自分で満たすことができない。

お風呂だけじゃない。トイレも、学校も一体どうやって行けばいいの。頭が真っ白になる。


「沙織、どうしたの?」


お母さんの問いかけに、頭を過ぎったのは藤本くんの言葉。言わなくても分かるは通じない。そうだ。今まで思いを吐露したことはなかった。欲求を口に出したこともなかった。


それはきっと、口に出すほどの欲求を人に満たしてもらいたいと思うことがあまりなかったから。


やりたいことは、自分でやればいい。それが出来ない今は、たとえ恥ずかしくても怖くても口に出さなきゃいけない。


「お、お母さん。シャワー浴びたい。でも、足の痺れがひどくて歩けない」


それからはお父さんが私を抱え、お風呂場まで連れて行ってくれ、お母さんが用意をしてくれ、一緒に中まで入ってくれた。背中を流すのも頭を洗うのも、全部お母さんがやってくれた。


「落ち着くまではお母さんが一緒に寝るわね」


自分の部屋から、お布団を持ってきて私の部屋に敷いたお母さんは何かあればすぐにお父さんを呼びなさいとお風呂に行ってしまった。


思いを口にすることはとても、勇気がいることだったけれど、家族になら甘えられる。


そんな風に思えた。
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