きみのためのプレゼント
どうせ、私には関係ないと、振り向きもせずに無視をしていると、今度は自分の名前を呼ぶ声がはっきりと耳に入ってきた。


「藤野さん!」


声と共に聞こえてきたのは車輪の音。振り向くとそこにいたのは、苦手な彼。


そう、藤本翔平だった。藤本くんは、車椅子を上手に動かして私に近づいてくる。


いつもなら気にも留めないけれど、今日はちょうど言いたいこともあったので、黙って彼が近づいてくるのをその場で待っていた。



「お疲れ様。いつもこんな時間まで部活?大変だね」

「あの、ここ最近、ずっと見学に来てるよね?すごく迷惑なの」



向かい合わせになって言葉を放つ。本当に迷惑。タイムも伸びないし、集中することも出来ない。


初めて交わした会話に少しだけ真顔になったのも束の間、またヘラヘラと笑い始めた藤本くん。



「ごめん。でも、俺、藤野さんの走る姿好きなんだよね。綺麗だから、見惚れちゃって」



「綺麗?そんなの意味ない。綺麗な走りなんて誰も求めてない。速くなくちゃ意味がないの」



綺麗な走りなんて必要ない。そんなの私をただ苛立たせるだけの言葉にしかならない。


ヘラヘラと笑うその顔も、励まして慰めているかのような言葉にもイライラする。
< 4 / 141 >

この作品をシェア

pagetop