きみのためのプレゼント
「藤野さん、あのマグカップって藤野さんの?」

彼がダイニングに置いてあるマグカップを指差す。水色のカップにイルカのイラストが、描かれたカップだ。あれはこの間、充からもらった水族館のおみやげ。


「そうだよ。充が、弟ね。弟が家族でどこかに行きたいって水族館に連れてってもらったんだけど、私は練習で行けなかったから、そのおみやげに買ってきてくれたものなの」


「そう、なんだ。可愛いカップだね」


「うん。お気に入りなの。藤本くんもイルカ好きなんだ?」


まただ。また、私の問いかけに答えることなく、彼はただ、マグカップを見つめてる。でも、本当にあれは私のもの。

確かに藤本くんと足や境遇は入れ替わったかもしれないけれど物までは変わらないはず。


「じゃあ、行ってくるね」


マグカップを、ただ見つめていた藤本くんだったけれど、お父さんを見送ったお母さんがリビングに戻ってきた途端、饒舌に説明してくれた。

「よし、これでオッケー。いつでも連絡し合えるから」


連絡先の交換も出来た。でも、私の連絡先なんて両親の携帯とこの家とお兄ちゃん、それと充くらい。

私の携帯に新しい連絡先が増えるなんて、あまり考えられなかったので、不思議な気もしなくはなかった。
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