きみのためのプレゼント
「確かに、タイムやスピードも大事かもしれないけど、フォームの美しさも陸上では大事なんじゃない?」


あんたに、走ることすらできないあんたに何がわかるのよ。この人と話をしていると本当にイライラが止まらない。


「・・・もう嫌なの。毎日、毎日頑張って努力しているのに、結果は身を結ばない。こんなことならもういっそ、あなたみたいに走れなくなればいいのに」


言った瞬間にハッとした。さすがに今のは言ってはいけない言葉。でも、素直に謝ることもできず、代わりに左手で口を覆い隠した。


さすがに目の前の藤本くんからもピタリと笑顔が消えた。ごめん。そう言って逃げよう。今のは完全に私が悪い。



「・・・だったらさ、俺と交代しようよ。俺、走りたいからさ」


「な、何言ってるの?」


彼の口から出てきた予想外の『交代』という言葉。消えたはずのヘラヘラ笑顔はまた彼に張り付いている。


でも、いつもとは違う雰囲気を纏う彼に少しだけ恐怖心を覚える。そして、無意識のうちに、一歩後ずさりをしようとしたところを、グッと力強く腕を掴まれた。

初めて男の人との力の違いを歴然と感じさせられたかもしれない。


普段はヘラヘラと笑っているし、どちらかと言うと藤本くんは童顔で世間的に言う可愛い系の男子。
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