きみのためのプレゼント
「こうなる前は、花火大会よく行ってたの?」


「んーでも、車椅子になってからも花火は見たよ。花火大会じゃないとこでだけどね。綺麗だったな」


なんだろう。この気持ち。目の前にいる私じゃなくて、誰かを思い出しているような藤本くんの少しだけ切なそうな表情に、胸が少し痛むような。


私といるのに、なんで他の子のことを考えるのだろう。


私の、藤本くんなのに。


自分がそう思ったことにハッとした。これじゃあまるで、藤本くんが私のものみたいじゃないか。恥ずかしいし、私は一体何を考えているんだ。


せっかく美味しいはずのジェラートを照れ隠しに黙々と食べるけれど、味よりもとにかく口に入れることで精一杯。


「藤野さん、藤野さん」


「な、何?!」


「口にいっぱいついてる。慌てて食べなくても、ジェラート逃げないから」


人の気も知らず、目の前の藤本くんはクスクスと笑っている。ジェラートを買ったときに持ってきてくれた紙で口を拭うも、恥ずかしくて彼の目なんて見られなかった。


ジェラートを食べ終えた後は少し、早いけれど花火大会の会場に向かうことにした。藤本くんは相変わらず他愛ない話題を提供してくれるけれど、私はそれに素っ気なく「うん」と相槌を打つだけ。


さすがに車椅子を押してくれてるから私の表情までは見えないだろうし、むしろ無愛想だなと思っているだろう。


実際は逆で、とてもテンパっていて、返事をするだけでいっぱいいっぱいだ。


「ちょっと邪魔なんだけど。車椅子で花火大会に来るとか迷惑すぎる」


花火大会の会場に向かう道は、少しずつ混雑してきていた。だからか車椅子を押す藤本くんと私は「すみません」と道を空けてもらっていた。でも、やっぱり周囲の目は優しくはない。
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