きみのためのプレゼント
手が触れ合う距離に並んで座った私たち。でも、どちらとも口は開かず、ただ、観覧車を眺めていた。そして、しばらくして先に口を開いたのは、藤本くんだった。



「今日はあまり、話さないね。最初覚えてる?藤野さんすごい、俺のこと嫌ってたよね?」


「・・・そ、そうだったかな。でも、今はそんなことないよ」


「ありがとう。観覧車の中で話そうと思ってたこと、少し時間があるから話してもいい?」


まただ。私といるのに誰かを思う切なそうな表情。彼の笑顔の理由を知りたいと思ったはずなのに、今はそれを少し知りたくない気もする。彼が深呼吸をして、重い口を開こうとした瞬間、ピタリと動きを止めた。


「ひかるー!」


声のする方に顔を向け、慌てた素振りを見せる彼。ひかる。ひかると呼ばれた子はさっきの小さな女の子。前園光と同じ名前。

その子を見つめる瞳は、優しげだけれどとても儚げ。


「藤本くん、前園光さんは、藤本くんの大切な人なのかな?」


つい、口をついて出た言葉。前置きもなく突拍子な私の言葉に、彼は優しく微笑んで言った。



「うん。光はね、俺の大事な人だよ。今もこれからもずっと変わらない大事な人」
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