恋を、した。
佳奈子さんには聞こえていなかったと思う。

だって、―― あれは私のひとり言で、そもそも聞こえるようになんて喋っていないんだから。

本音を言えば「いってらっしゃい」も「おかえりなさい」もいらない。

いちいち玄関にまで出てこなくていいのにとさえ思ってる。

にこにこされたって困るだけ。

会話を成り立たせようなんて、最初から思ってないんだから。


だけど完全に無視は出来なくて、――。


この、微妙な距離感、位置、関係。

アンバランスなりに成り立っているのは、誰のおかげなんだろうね。


私は、入江美琴。18歳。

パパと、パパの新しい奥さんの佳奈子さんと、現在3人暮らし。

人より遅い反抗期真っ只中の、高校3年生。
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