ピアスの秘密
イヴの朝、コンサートは4時からというのに、落ちつかなかった。

昼食の後片付け、夕食の準備、主婦として一応やることはやった。

主人もいつもよりてきぱきと動く私をみて笑って言った。
「里香さんといくのか?」
「うん、もちろん」

「若い子相手に、おばちゃん2人はりきってたら、笑われるで。楽しんでおいでや。」

「はーい。パパの言うこときくのよ。いってきます。」

今からつかの間、主婦を忘れることにする。

里香と駅で会い、40分ほど地下鉄に乗った。私たちの会話は弾むばかり。

今日は里香がいるから、心強かった。

会場へ入り、座席を探してみたら、どんどんステージが近くなる。胸の鼓動も高鳴った。

向かっやや左側の前から3列目、こんな近い席ははじめてだった。

「すごく近いね。すごいね。昌也君みるの10ヵ月ぶり。」里香も興奮している。続けて

「近いから恥ずかしいね。欲張ってもっと近くに行きたくなるね。」私もそう思っていた。

どう言葉にしていいかわからず私は
「すごいね。すごいね。」
と繰り返すばかりだった。
開演5分前、私は重大な事を忘れていた。

青木 領は私の顔を知らないということを…
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