ピアスの秘密
3階の会場までエスカレーターであがるのだが、はき慣れない靴で足も痛く、かなり恥ずかしいくらい息があがっていた。

いい女からはほど遠い、ホテルのラウンジには似合わない、一人で都会に出てきて道に迷っているおばさんになっていた。

それに今日は千秋楽日で遅れてくる人は、あまりいなかった。
私はまわりを見渡し、会場専用と書いてあるエレベーターをみつけ、滑り込み3Fのボタンを押し、閉のボタンも続けて連打した。

エレベーターの中にあるスピーカーからは、舞台に立つ領君のさわやかな声が聞こえてきた。やっぱり間に合わなかった…

スピーカーに集中しながら、息を整え、髪や服も整え、慌てていない顔も作ってみた。
早く見たくてたまらないのに、必死な形相で会場にはいるのは、格好悪いと私は思っていた。

やっと3Fに着いた。
いよいよと思い、扉の前できちんと立った。
そして、やっぱり22才のアイドルを見に、29才の主婦が一人で行く事は、少し恥ずかしいなぁと思った。

いよいよ扉が開く。

あー、領君主演のお芝居が見れる。
この日をどんなに楽しみにしていたか。

その時、グラッ少しだけとエレベーターが揺れたような気がした。




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