ピアスの秘密
「がんばってね。かわいいから彼女になれるといいね。」

「はいっ!がんばります。」と彼女はとても嬉しそうだった。

私の適当な応援に、純粋に喜んだ彼女、その瞬間私のほうが別世界のつりあわない汚い人間に思えた。

そして、若さというのは夢があるし、可能性もたくさんある。

私にもこんな年頃があったはず、少なくとも今日は彼女と同じ気持ちで舞台をみていただろう。

でも、それを素直に表現できない、いろいろと葛藤しながら平静を装ってしまう。

今、私がこの子のように若くて、こんなにかわいかったら、きっと勇気を出して彼に自分から連絡を取ったに違いない。

やっと大好きな人に巡り会えたチャンス、思いっきり突っ走っただろうと思う。

現実、彼より7つ年上、子持ちの主婦、ありえない。

なのにまた、勝手に片想いをして涙を流してしまった。今、隣の彼女を見て現実を再認識し、あらためて自分がバカだったと、実感した。

そのおかげというか、2部は物語に集中しながら彼を見ることができた。

あっという間にエンディングを迎え、大きな拍手に会場が包まれた。

彼は舞台の中央に立ち、遥か遠くを見つめ、幕が降りた。
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