ピアスの秘密

｢お客さま、大変申しわけありません。中には何名いらっしゃいますか？お怪我などありませんか？すぐに救急隊を呼びますので、もうしばらくお待ちください。｣と、さっきの人とは違い、ハキハキと標準語を使う男性が言った。

外の状況が分からない私は少しイライラした。
｢私一人です。体はなんともありません。いったいどうなってるのか教えてください。｣
｢大変申し訳ありません。えー、先程弱い地震がありまして、誤作動で自動制御装置が働いてしまいｴﾚﾍﾞｰﾀｰが止まってしまいました。誤作動のため解除に手間取っております。救急隊に連絡しますので、もう少しお待ちください。｣
｢えっ、そうなんですか。絶対に落ちないですよね。｣思わず聞いてしまった。
｢はい、落ちることはありません。｣男性は即答してくれた。
｢私は大丈夫です。気分も悪くないし、元気です。少し待てるから、救急隊に連絡しないでください。お願いします。｣

もしも、救急車や消防車がｻｲﾚﾝなんか鳴らして来たら、お芝居の出演者や、見てるお客さんの気が散るし、何より、目立ってしまう自分が格好悪いと思った。


今ﾚﾍﾞｰﾀｰに人が取り残されていることは、会場の中は誰も知らない。