ピアスの秘密

「クリスマスの時、僕から誘っておいて途中で帰ってごめんなさい。」

「いいんです。ちょうど帰らないといけない時間だったし。それより青木さんこそ間に合いましたか？」

「間に合いました。あの…領でいいです。みんなそう呼んでるし。」

「あっ、はいっ。でもやっぱり…領君でいきます。」恥ずかしくて領なんて呼べない。

「青木さんよりいいかな。」と言って少し慌てた私を見て笑った。まるで私の方が一喜一憂する子供みたいだ。

「忙しすぎて、体は壊してないですか？」

「それは大丈夫。忙しいのはうれしい事だし、やりがいがあるんだけど…時々、どれが本当の自分かわからなくて苦しくなるときがある。」と彼は悲しい顔をした。

「全部、領…君なんだから気にしなくていいと思う。」
「全部？」

「どれも本人、本物。うまく言えないけど、全部領君だから。」と笑ったら

「うん、そうだね。」って彼の表情は明るくなった。
簡単な返事が、領の気分を軽くしてくれた。

僕はちひろさんの事を何も知らない。

知り合って１年も経つのに、何処に住んで、誰と暮らしいるのか、知らない。

そして今、ちひろさんの事を知りたいと思った。