ピアスの秘密
「ありがとう。明日がんばってね。おやすみなさい。」

「がんばります。本当は明日招待しようかと思ったけど、今日でよかった。おやすみなさい。」

聞きたいこと、いいたいことがたくさん出てきたが、会釈をして、私は悲しくて一気に階段を駆け降りた。
領はちひろさんが振り向くかも知れないと、足音が聞こえなくなるまでそこにいた。

すると、電車がやってきて、ちひろさんの足音は聞こえなかった。

領はあきらめて走って帰った。

ちひろは電車に乗れなかった。

もう一度降りて来た階段を必死に駆け上がったが、改札口に領の姿はなかった。
いるはずないよね、現実はこんなものだと思った。

そして次の電車に乗った。
あのまま駆け上がった時、彼がいたら、待っていたらどうなったんだろうと、少し自分のした事が怖くなった。

何不自由ない生活があるというのに…

部屋へもどった領は、ちひろさんの何を知ってるのだろうと考えてみた。

結婚指輪をしているから、たぶん結婚していると思う。
それにおそらく僕より年上と思う。たったそれぐらいしか知らない。

とても遠い存在に感じた。
そして彼女は自分から一度も連絡してこない。
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