ピアスの秘密
なんといっても、今日は千秋楽で、みんなそれぞれ特別な思いがあるだろう。
そんな大事な日に、事を起こすわけにはいかない。

領君の舞台の邪魔はしたくないと心からそう思った。
それにホール側もそのほうがいいと思うはずだ。

「ありがとうございます。もう少しお待ちください。何かありましたら、こちらに言ってください。」
「わかりました。私は大丈夫です。」と言った後、必死で平静を装っていた私は緊張の糸がきれ、次々と涙がこぼれた。

いつもFのイベントなら、主婦友達の里香が一緒にいるのに。
ただ今回は、領君の舞台で、里香の好きな昌也君は出演していなかったので、私は初めて気合いを入れて一人できた。

なのにどうしてこんなことになったんだろう。
家族を置いてきた、罰だろうか…いろいろ考えてしまう。

でも、もう少ししたらここら出れる。残念ながら、私はお芝居が見れないけど、このエレベーターの中でさっきからずっと音だけは聞こえている。

幸い一人で音に集中しお芝居を聞いて楽しむこともできる。
気分をかえて隅に座り、スピーカーに集中した。出演者達の声が聞こえる。何か会議をしているようだ。

私は目を閉じて、観客の一員になった。
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