ピアスの秘密
一瞬傷付いたけど、それは違っていた。

ちひろはゆっくりと手の平を返して、領の指の間に自分の指を入れ、しっかり力強く握りしめた。

領はとてもドキドキした。いい大人同士なのに。
ただ手を繋いだだけなのに。
領も強く握り返した。

ちひろがどんな顔をしてるか気になったけど、

「すごい力だね。」って笑っていた。

僕はちひろさんを素敵な人だと思った。
そして、この人を好きになってしまった…

20分くらいで駅についた。
やっと繋がれた指は、離れてしまった。

車を降りた二人に沈黙がながれた。

「今日も楽しかった。ありがとう。」

「僕も…」

「ツアーがんばってね。」
「うん。時々電話してもいいですか?」

「待ってます。」

「…」

「じゃあ、おやすみなさい。」

「おやすみなさい…」

ちひろは少し走って改札へ向かった。

もう少しで、帰りたくない自分が表面に現れてしまいそうだった。それを領に感付かれるのが恥ずかしかった。

でも本当は領に引き止められたかった。

領は引き止めたかったのに勇気のない自分が腹ただしかった。

ホテルに向かいながら、ちひろの手の感触を思い返していた。
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