ピアスの秘密
ちひろも帰りの電車で、領と繋いだ手を思い返していた。

あの手をつかんだ瞬間から、私の気持ちは走り出してしまった。

どうしよう…少しの後悔を感じ、幸せも感じた、この先にはきっと悲しいことがあると思う。

だから望まない。
彼は私のものでもないし、私はそんな立場でもない。
ただ、今が今のままで続いてほしいと願った。

苦しくなって領に初めてメールを送った。考えて考えて、何度も打ち直した。
こんな短い言葉になってしまった。

《ありがとう。》


《ありがとう。領》

彼からの返信。

とても短いけれど、うれしかった。

さっき会ったばかりなのに、もう会いたい。

領もまた、ちひろからの短い言葉の意味を感じ取っていた。

メールなら素直な気持ちを表せやすいかと思ったけれど、送信せず何度も読み直すと、安っぽい感じがしてとうとうこの言葉になってしまった。


まだ東京にいるマネージャーの坂本には、領が撮影終了後に一人で京都の町へ行ったことが、もう耳に入っていた。

領は明日に備えて、シャワーを済ませ、ベットに入りいろいろ考えた。
そして、そばにいないちひろへ

「おやすみ」と言った。

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