ピアスの秘密
ある日、ロケバスで移動中カーテンの隙間から外を眺めていたら、

「なぁ、領」隣に座っていた直人だ。

「なに？」領は外を見たままだった。

「あのさぁ、大阪の友達って去年の大阪の打ち上げの前に会ってた人か？」

「違う…」領はビックリしたが平然として答える努力をした。

「的中だな。誰にもいわないから安心しろ。」

「……」


「大事な時だから、適当になっ。」

「わかってるって…」


領は最後まで外を向いたままだった。

適当にってどういう意味なんだと、腹がたった。

でも本当の意味はわかってる。

坂本の事以来、事務所から特定の人との交際は、まだしてはいけないと、厳しく言われている。

ちひろと付き合うとかそういう問題ではない。

付き合ったところで、会いたいときに会えない、お互い重荷になるだけだと領はわかっているつもりだった。

最近、家に帰るのも明け方で、帰れないときもよくある。

そして、自分が今何処に居るのか、わからなくなるくらい忙しい。

逃げ出したくても逃げ出せない。
そんな時、ちひろにメールをしてしまう。

あの穏やかな笑顔、あの優しい声を感じ、自分を取り戻した。
< 74 / 109 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop