腹黒エリートが甘くてズルいんです
「よし、わかった。待ってろ」

そう言い残し、席を立つ先輩。
その間に由依と取り合った手をそのままに話し出す。


「やっぱりさ、難しいし恥ずかしいよ、今更仕事辞めて昔の夢を追いかけるとかさ、道端のミュージシャンじゃないんだからさ。由依と楽しく過ごしながら、適当にいい人見つける事にする、フツーの幸せ模索する!」


「そりゃあ、莉緒に会社に居て欲しいけど、でもさ、本当にやりたいことが見つかるのって結婚相手が見つかることより難しいかもよ? 折角の決意をやっぱり引き留められないじゃん……」


あたし達は、酔いが回ってきたこともあり、中々にこの状況に心酔していた。


「おっまだやってんのか。ただいまー」


「どこに行ってたんですか?」


「トイレだけど?」


あ。冷静な人がいる。
先輩の言葉に少し冷静になり、由依とおつまみを選ぶことにする。


「さすがにお腹いっぱいー」

などと言いながら、メニュー表を覗き込んでいると、いつ頼んだのかも忘れたけれど、ハイボールが3つ運ばれてきた。


「さ。それでは皆様、乾杯をします」

ジョッキを手に取り、おもむろに先輩が音頭を取る。
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